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「カラーダイヤモンド専門店 コズミック」店主によるカラーダイヤモンドブログ
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ダイヤモンド今昔物語ーその7
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          ―前回の続き―

     

    《Antwerp 中央駅(正面奥)と駅前通り、198X年》

     

    198X年、年明け早々のAntwerpダイヤモンド街、空気は冷たく、吐く息がやたら白く感じた。大阪から来たバイヤーの川島賢次は長旅に疲れていた。新年の挨拶回りもそこそこに、重いスーツケースを転がして会社を出発したのは24時間以上前だった。伊丹空港までバスに乗り、BA(British Airways)のチェックインカウンターで荷物を預け、搭乗券を受け取ってホッと一息ついたのはもう数日も前のことのように感じていた。それから、成田まで飛んで1時間待ち、そののち北太平洋を跳び越え、アラスカのアンカレッジで飛行機から出てトランジットのエリアで背筋を伸ばし、また乗りこんで今度は北極圏を飛び、Londonに到着したのは翌早朝だった。そこからまだ、ベルギーへの最後のフライトが待っていた。ヒースロー空港で3時間を過ごした後、ようやくAntwerpに辿り着き、ホテルにチェックインしたのはお昼前だった。部屋に入ることは出来たが、部屋の掃除は未だ済んでおらず、直前の滞在者が使ったタオルが置きっぱなしになっていた。これではシャワーを浴びてサッパリすることもままならない。スーツに着替え、気持ちがどんよりとなりながら、買い付け現場、“戦いの場”となるディアマンタル社に来てようやく我に返ったようにハッとなった。社長のリップワース氏と握手して少し“戦闘モード”に入った気がした。いつもの部屋に行くと、既にブローカーが3人も座って待機していた。

     

    Good morning、皆さん、お早いですな、こっちはまだ半分寝てるのに」

    「昨日、Big アナウンスがあったんだよ、川島がAntwerpにやってくるって」

    「えらいこっちゃな、聞くだけでしんどいわ。他の部屋へ行こ」

    と言って川島は、部屋を出て行きかけ、笑顔でまた直ぐに戻った。和んだ空気が流れ、川島にいつものペースがやってきた感じがした。

     

    ディアマンタル社がバイヤーとブローカーで活況を呈している頃、ミカエルはコディアム社のオフィスでアルノンと話をしていた。

    「ミカエル、未熟なお前にこんなことを聞いても仕方ないことは分かってるけど、厳しい現状を如何にして切り拓くか、何かアイデアはないかな」

    「うちの商品で売れているのはメレだけですから、扱うメレの種類を増やせば良いのではないでしょうか」

     

    「そうだな、現実的にお前が可能なのはそれしかないだろうな、そのためには資金が必要だ。それをどうやって・・・」

    アルノンは立ち上がって窓際に行き、外を眺めながら久しぶりにロシア語でブツブツと独り言を言い始めた。窓ガラスに少し写った悩めるアルノンの顔が、酒に酔ったミカエルの父親と重なった。『兄弟じゃないのか?!』、突拍子もない思いがミカエルの頭の中で吹き上がった。しかし、この際そんなことはどうでも良かった。アルノンがミカエルの叔父であろうがなかろうが、コディアム社の置かれた状況は何一つ変わらなかった。ミカエルが不思議そうな表情で自分を眺めていることに気が付いて、アルノンはハッとして顔を引き締めた。そこにはもうミカエルの父親の面影は一切なかった。

     

    「お前、確か、リップワース氏に何度か声を掛けてもらったと言ってたな。彼を頼ってみようか」

    アルノンは、ロシアもののCleanishDEFカラーのVVSVS)が20個から30個ほど入ったプラスティックのケースをいくつか金庫から出し、ミカエルの前に置いた。

     

    「これらのロットは何度もトライしましたけど、まるで値が付きませんでした」

    「分かってるよ。そろそろ‘見切りどき’だと思ってね。ただし、あっちこっちで売ると目立つし悪い評判も立ちかねないし、また更に値下がりを呼んでしまうかもしれない。リップワース氏のお客さんにまとめて買ってもらおうと思う。早速に行ってくれ」

    アルノンは、ミカエルにいくつか具体的な指示をして送り出した。

     

    10分後、ミカエルはディアマンタル社のリップワース氏の前に座っていた。リップワース氏はいつものように葉巻を灰皿に置いて、頭の後ろで両手を組んでミカエルの話を聞いていた。

     

    「キミの話は良く分かった。商品を見せてくれないか」

     

    ミカエルが立ち上がってリップワース氏の前の白いパッドの上にロシアもののCleanishのケースを並べた。リップワース氏はケースの上からザッとルーペで眺め、電卓で計算を始めた。時おり数字を書きつけては何度もやり直した。

     

    《Antwerp、とあるオフィスのボス(この写真はStoryとは一切関係ありません)》

     

    「荒っぽい計算だけど、もしこれらを全部売ったとしたら、合計30万ドルほどになる。一人のバイヤーに買わせるのは少しシンドイかもしれんな。まあでも、やってみよう。うちの手数料収入も半端じゃないし」

    と言ってリップワース氏は笑い、葉巻を手に部屋から出て行って、また直ぐに戻って来た。後ろに日本人と思われるバイヤーを従えていた。二人が入室するなり、リップワース氏は、いつも開けっ放しになっているドアを閉じた。

     

    「川島さん、彼はブローカーではなくて、ある会社の社員だ。まだ若いけど有能なアソーター(ダイヤを品質によって分類する仕事をする者)でもある。彼のボスが、原価が高過ぎて値が合わなくなっているロシアもののCleanishを売りさばきたいということで、ここに数ロット持って来ている。見てやってはくれまいか。現状の市場価格よりも低い値段になるのは仕方ないところだけど、出来たら全部まとめて買ってやって欲しい。あっちこっちで売ってしまうと、いっそうマーケットが下振れしてしまうから、貴方一人にお願いすることなんだ。なんとか頼むよ」

    「そりゃまあ、ロシアもののCleanishは日本のBridal市場に必要不可欠やからねぇ、なんぼでも買いまっせ。せやけど、うちも商売やし、甘いPriceは出せまへん。とりあえず、見てみんことにはなァ」

     

    川島は部屋の隅を見ながら何か考えているようだった。

    「今日は無理かもしれへんな。初日やし、Long Flightで疲れた。明日にしよか」

    「分かりました。出直します。時間を言ってもらったらその時間に来ます」

    「ほな、朝一やな、9時」

     

    翌朝、845分、ミカエルはディアマンタル社のドアの前に立っていた。インタホンを鳴らしたが、まだ誰も来てないようだった。数分後、若い女子社員がやってきた。若いと言ってもミカエルよりは数歳年上に違いないに違いなかった。

    「あら、ごめんなさい、待たせた?」

    「いえ、ほんの少しだけです」

     

    Good morning

    後ろから声がして、振り向くと川島だった。

    「おはようございます」

    「早いなあ、約束の時間より早よ来るもんがAntwerpにおったとはな。初めて見たわ」

    川島は、日本人としは大柄で‘いかつい’顔つきだったが、英語はかなり上手だった。海外からのバイヤーと話しているうちに、若いミカエルの英語はかなり上達したが、まだまだボキャが不足していることを自覚していた。『分からない単語は直ぐに聞くなりして覚えろ』と、アルノンからは常に言われていたから、それは心掛けていたが、日本人のバイヤーのほとんどはミカエルと同程度か、それ以下の英語力で、彼らと接していても全く“学習”にはならなかった。川島からなら学べそうだとミカエルは内心喜んだ。

     

    「ちょっと待っててな、コーヒータイムや」

    川島はオフィスのキッチンへ行ってネスプレッソのコーヒーマシンを素早く操作し、カップ片手に戻って来た。

    「キミは歳いくつ」

    18です」

    「マジかよ。昨日、リップワースさんがキミのことを有能なアソーターって言うてたけど、一体いくつの時から業界におんねん?」

    「もう5年になります」

    「な、な、なんとまあ。ということは、親の仕事を手伝ってたんか?」

    「いえ、そういう訳では・・・」

    「何か‘いわく’が有りそうやな、聞かんとくわ」

     

    「ほな、Let’s Goや」

    川島は腕まくりした。

     

    「値段の高い順に並べてくれ」

    「単価(Price/crt)がですか?」

    「分かり切ったこと聞くな」

    Excuse me

    これは厳しい道のりになるのだろうと、ミカエルは覚悟した。

     

        ―続く―

     

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