Uki Dialy

「カラーダイヤモンド専門店 コズミック」店主によるカラーダイヤモンドブログ
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ダイヤモンド今昔物語ーその5
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        ―前回の続き―

     

    Excuse me

    と言ってエリックは、アルノンとの電話を保留にして自分の部屋に戻って行った。自室でアルノンと商談を続けるということなのだろう。ミカエルはデニーに他の商品を見てもらおうと思ったけど、デニーの買い付けリストに入っている物は現在商談中のメレしかなかった。

     

    「今回が初めての買い付けなんですか?」

    2回目だけど、前回は伯父と一緒だった。ほとんど見てただけ。今回が初めてみたいなもんだな。」

    「伯父さんが社長?」

    「そう、従業員が5人しかいないけどね。」

     

    「ところで、この会社、ベラダマスは大きくて有名なんですか?」

    「俺もまだ良く分かってないけど、Antwerpの中では古い方と聞いた。エリック兄弟が4代目になるとか言ってたな。」

     

    「ところでミカエル、キミはブローカーじゃなさそうだな、まだ若いし」

    「そうなんです、社員ですよ。従業員は僕ひとりだけど」

    「そりゃ大変だ。さぞや‘こき使われて’いるんだろうな」

    ミカエルは、デニーの英語をよく理解できないこともあり、肩をすくめるしかなかった。エリックはアルノンとの話を続けていて、まだ戻ってくるような気配がない。

     

    「私のボスはちょっと変わってるんですよ、ユダヤ人じゃないし」

    「へー、それは珍しいな」

    「しかもベルギー人ですらない、オランダ人ですよ、ひょっとしたらロシア人かもしれないし」

    「君は? ミカエル」

    「僕もユダヤ人じゃない、Antwerp生まれの普通のベルギー人です。父はオランダ人で、、、」

    ミカエルは父親のことを『オランダ人で、ロシア移民の息子』と言いかけてハッと気が付いた。アルノンも父親と同じに違いない、ロシア系のオランダ人だ、きっと。そればかりではなかった。最近のアルノンはミカエルの父に本当によく似ていると感じることが何度もあった。ミカエルが拾ってもらった頃のアルノンは、裕福ではないけど何か余裕を感じさせる風貌だった。ところが最近の不景気でイラついていることが多くなり、そんな時の顔つきが父の面影と重なった。思えば5年前、アルノンにダイヤモンド街で出会ってお金を貰う前、名前を聞かれた。そして翌週に救われた。アルノンと出会って拾われ、生きて行くのに精一杯で何も疑問を感じてはこなかったが、アルノンが拾ってくれたのは単にアルノンの出来心だけではなかったのかもしれない、アルノンは自分の親族の一人なのかもしれないという思いが突然にミカエルの中で大きく湧き上がってきた。

     

    Gentlemen, Mazal(マザール、売買成立)

     

    エリックの活き活きとした声が、部屋に飛び込んできた。ミカエルはほんの一瞬戸惑った後、安堵の溜息を洩らした。エリックは二人と握手しながら言った。

    「アルノンは聞きしに優るtough negotiatorだな。価格が厳しいから支払いはCOD (cash on delivery、納品時現金)を要求されたよ。うちの通常の支払いは35日後だ。遠慮なくCODと言ってくる者に初めて会った。ホント恐れ入ったという感じだな」

    「それで、支払いはどうなったのですか?」

    CODで構わんよ。$400、約10crtsのパーセルの30rejection、合計金額はざっと$2,800という少額だ。帰る時に小切手を持って行きなさい」

     

    エリックの会社は、この合計$2,800の商品に3%の手数料を乗せて$2,884でデニーの会社に納品するという訳である。自社で在庫を持たず、海外からやってきたバイヤーに場を提供し、買わせて手数料を取る、というローリターンながら極めてローリスクの商売形態の実際を目の当たりにし、そして一方の当事者となり、ミカエルはやっとダイヤモンド街の端っこに足を踏み入れたような気持ちになった。

     

    オフィスに戻って、受け取ったばかりの小切手をアルノンに渡しても、アルノンからは‘ねぎらい’の言葉ひとつなかった。それに関してミカエルは特に何も感じはしなかったが、アルノンが何やら書類をじーっと見つめて思考に没入しているのが気に掛かった。アルノンは、エリックが言うようなtough negotiatorなどではなく、本当のところは、お金が足りないのではないかと案じた。

     

    気が付けばダイヤモンド街に夕闇が迫っていた。

    「もう帰っていいぞ」

    アルノンに声を掛けられ、ミカエルはオフィスをあとにした。初めてセールスが出来たという喜びよりも、何か漠然とした不安が大きかった。アルノンが窮地に陥っているのなら、拾ってもらった恩を返す時がきたと言えるし、親族かもしれない自分が助けることは当然の義務であると思った。アルノンのために何か役立ちたかったが、力不足は遺憾ともし難かった。それでも、その週はエリックのオフィスに入りびたり、合計500ドルから1,000ドルのMazal3つあり、全て小切手を貰って帰ってきた。アルノンの硬い表情が若干ながら緩んだのが見えて少し嬉しくなった。

     

    翌週月曜、『来週また来なさい』と言ってくれていたリップワース氏のディアマンタル社を訪問した。別々の部屋に日本人と思われるバイヤーが一人ずつ座っていた。ひとりは既にブローカー相手に多忙だった。もう一人のところへ行ってリストを見ると、ミカエルが持って来た商品がいくつも該当していた。

     

    Can I show you?

    Sure

     

    「How much?」

    「$3,650です」

    「こっちは?」

    「$5,500」

     

    ロシアものの0.3crtから0.5crtのパーセルを見てもらって価格を言っても、『全く話にもならない』という顔をされた。そう言えば、先週もそうだった。Offerもないということは、経験の浅いミカエルと言えども、相当にかけ離れたAsking Price(売り手からの言い値)なんだろうと推測できた。ロシアものの短期間での大きな値下がり。これがアルノンの大問題なのだと確信した。バイヤーへの売り込みが上手くゆかず、またちょっと手詰まりになったミカエルは、『何でも遠慮なく聞きなさい』と言ってくれたリップワース氏の言葉に甘えることにした。先ほどチラリと見えた時に挨拶したばかりだったので、彼の部屋へは入りやすかった。

     

    「ちょっとお聞きしてもいいですか?」

    「やあ、ミカエル、入って座りなさい」

    「あ、ありがとうございます。」

     

    リップワース氏に『どうした?』と聞かれてミカエルは、アルノンの在庫のロシアものに全く値が付かないという話をした。

     

    「それはアルノンだけの問題じゃないんだよ。多くの人が読み間違った。De Beersとロシアは対立と協力を繰り返しているんだ。去年、De Beersとロシアが協定に調印して、ロシア産の原石の9割をDe Beersに販売することになったのだけど、今年に入って外貨不足に陥ったロシアがDe Beersへの販売分とは別の大量の原石を裏のルートで流し始めたんだよ。お蔭でAntwerpのロシアもの業者は大混乱さ。De Beers経由の正規品の価格が大きな値崩れを起こしたという訳だ」

    「今後はどうなりますか?」

     

    「価格が底を打つまでにまだ少し時間が掛かるだろうし、底を打ったとしても本来の価格に戻るには相当の時間が必要だ。」

    「アルノンはどうすると思いますか?」

    「賢い彼の事だ、心配いらない。どんどん安くなる市場価格を追いかけても仕方ないだろ。キミは何か他のアイテムを売ることを考えなさい」

     

        ―続く―

     

     

     

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