Uki Dialy

「カラーダイヤモンド専門店 コズミック」店主によるカラーダイヤモンドブログ
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ダイヤモンド今昔物語ーその3
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       ―前回の続き―

     

    ミカエルの順番が巡って来た。このオフィスの中に入って約2時間が経過していた。ミカエルは、二人の日本人バイヤーの明らかに年長者である者の方に10個のメレのパーセルを置いた。

     

    年長者のバイヤーが10個のパーセルの表書きを見て言った。

    「小さな物は要らない」

     

    ミカエルは『えっ?』という表情になった。

     

    『これを見ろ』とデスクの上の紙を指差された。A4の用紙の一番上に二人の名前が書かれ、その下にいくつかのアイテムが記されていた。

     

      

       S. Tanaka

            H. Kato

     

      Round

      1.0ct DEF VVS VS

     

      1.5ct FG VS

     

      2.0ct FGH VS SI

     

      3.0ct FGH VS SI I1

     

      Fancy Shape

      1.0 ~ 2.0ct HS PS FG VS SI

     

         Best Regards

     

         

    全て1カラット以上の物ばかりだった。部屋に入ると同時にこの『買い付けリスト』を見るべきだったのだ。ミカエルは他に0.3crtから0.5crtのロシアものしか持ってなかった。尻尾を巻いて退散するしかなかった。2時間を無駄に過ごしてしまった。再び自己嫌悪感に襲われて、小さく溜息をついた。しかし、2時間居眠りしていた訳ではなかった。バイヤーとの遣り取りを勉強することができた。少しだけど学べたと思い直した。商品を鞄に入れ直して部屋から出て行く時にバイヤーから何か言われたような気がした。振り返って『Excuse me?』と聞いたが、『No problem』と言って手を振られた。きっと、日本語で何か揶揄されたのだろうと思った。せっかく来たのだから他の部屋も覗いてやれと思った。再びカウンター越しに女子社員たちを見て、先ほどまでいた部屋の反対側に行った。ドアが開いている部屋の中を見ると、初老の男が葉巻をくわえてパソコンのモニターを眺めていた。いわゆる“Religious”ではない(信心深くはない)、典型的なアシュケナジー・ユダヤ(中東系ではない欧州系ユダヤ人)の風貌の男だった。男と目が合った。このオフィスの社長に違いなかった。一応、挨拶だけはしておこうと思った。

     

    「商品、見ていただけませんか?」

     

    「バイヤーとはダメだったのか?」

     

    ミカエルは先ほどまでの話をした。

     

    「あいにくと今は彼らだけだ。来週になったらまた別のバイヤーがやってくるよ。その時にまた来なさい」

     

    「ありがとうございます」。

    お礼を言ってミカエルは出て行こうとした。

     

    「ちょっと待って。初めてだね。キミはどこのオフィスの商品を持っているの?」

     

    「私はブローカーではありません。コディアム社の社員です」

    と言ってミカエルはIDを見せた。

     

    「コディアム? 聞いたことがあるような、ないような、、社長の名前は?」

     

    「アルノン・ゴルダです。」

     

    「えー、そうだったのか。」

     

    男は少し驚いた様子で、『立ってないで、こちらに来て座りなさい』と言ってくれた。ミカエルは訳が分からず、一瞬、躊躇ったが、言われた通りにした。

     

    「アルノンは元気にしているのかな? 以前に居た会社では色々と騒動に巻き込まれて大変だっただろうな。いや、キミには関係のない話だ、失礼、私はここ、ディアマンタル社の社長、エリ・リップワース。以前、ロシアに原石の買い付けに行った時、アルノンに助けてもらってね、もう10年以上も前の事だ。彼とはロシアで偶然に一緒になったのだけど、本当に親切にしてもらった。オフィスに戻ったら、よろしく伝えてくれ。」

     

    リップワース氏から、ミカエル自身のことも聞かれ、ミカエルは5年前からのことを正直に喋った。今日までの2週間は、ダイヤモンド街でロクに話もしてもらえなかったから、ストレスが溜まっていたのかもしれなかった。自分で呆れるほどよく喋った。そしてかなり後悔した。

     

    「私がこんなこと喋ったとアルノンに言わないで下さい、お願いですから」

     

    「心配しなくて良い。キミのことを告げ口に行くほど私もヒマじゃない。」

     

    リップワース氏は続けて、『ディアマンタル社には、ほぼ毎週、日本人のバイヤーが来るから、彼らの買い付けリストにある商品を持って来れば良い。リストは、外のドアの右側の掲示板にも貼ってあるので、中に入らなくても見ることができる。他に知りたいことがあれば何でも遠慮なく聞くように』などと言ってくれた。

     

    ミカエルは丁寧にお礼を言って辞去した。何か‘とっかかり’が見つかったような気がした。しかし現実問題として、何も売れないどころか“カシェット”もなしでは社に戻れないと思った。ディアマンタルのような会社が他にもあるに違いないから、それを探してみようと思った。ちょうどランチタイムになっていた。バイヤーたちは昼食のためにビルから出てきてショッピングセンターのレストラン等に行くに違いない。お昼の時間にビルから出て来る人と、ビルの中に戻る人をチェックしようと思った。5年前にミカエルが偶然出てきてダイヤモンド街と遭遇した出入り口付近まで来た。近くの、ひときわ綺麗なビルの対面の壁にもたれて、また観察を始めた。しばらくは、黒ずくめの男たちと、この界隈でいつも見ているような男女しか通らなかった。20分くらいして、スーツ姿で手ぶらのユダヤ人が、薄いブリーフケースを下げた東洋人の男と一緒に歩いてきた。ミカエルはまた後をつけることにした。すぐ前の綺麗なビルに入って行った。小走りに追いかけた。エレベーターの前で、ユダヤ人の男が東洋人の男に言った。『これから行くオフィスは、ネゴ(商談)に時間が掛かるから、いくつかカシェットして直ぐに出よう』。彼らは研磨業者の在庫を見に行くところだったのだ。ついて行っても無駄だった。ミカエルは踵を返してビルの外に出た。立っていた場所に戻ってまた観察を再開した。15分もしないうちに、先ほどの‘二人組’が出て来た。東洋人は何か怒っている様子だった。ユダヤ人はそれをなだめているようだった。『とりあえず、オフィスに戻ろう』という声が聞こえてきた。チャンスだと思った。東洋人のバイヤーは、一緒にいるユダヤ人の男のオフィスでブローカーから商品を買ったり、男の案内でいくつかのオフィスに出向いて商品を選び、そのユダヤ人の男に手数料3%を支払って、まとめて輸出してもらっているに違いなかった。

     

    20メートルほど歩いてビルの中に入った。エレベーターの前には彼ら以外に誰もいなかった。ミカエルはユダヤ人に声を掛けた。

     

    「コディアムのミカエル・ゴフコフスキーと言います。バイヤーの方に商品を見てもらいたいのですが」

     

    何か考え事をしていたような風情のユダヤ人の男だったが、ミカエルの方に向いて笑顔を見せた。コメディアンのような優しい笑顔で、ミカエルは大いに安心した。

     

    「構わないけど、何を持ってるの?」

     

    「メレとロシアものです」

     

    「この人には不要だけど、もう一人のバイヤーが買うかもしれない。来なさい」

     

    エレベーターを9階で降りた。細いビルで、1フロアに1社だけのようだった。非常に開放的で、エレベーターの扉が開いたら、オフィスのひとつの部屋の中が見えていた。

     

    『こっちだ』と案内される方向に行くと、もうひとつの部屋に若い東洋人が一人座っていた。『OK?』と聞いたら頷いたのでメレのパーセルをデスクの上に置いた。バイヤーは、最初のパーセルを開いてscoop(ダイヤ用のシャベル)で約半分、5カラット分ほどすくい取り、白いパッドの上に静かに置き換え、ピンセットとルーペを使い始めた。ピンセットの運びは明らかにミカエルよりも遅く、時間が掛かりそうだった。20分ほど経過した時、価格を聞かれた。アルノンのリストには$400と書かれていたが、そのまま言うと後のネゴが大変そうだから、$450と言った。バイヤーはまだパーセルの中身を全て見終わってないようだった。自分と同じく初心者なのかもしれないとミカエルは思った。何かちょっと嬉しい気分になってきた。パッドに顔を近づけてメレを見ていたバイヤーが顔を上げてミカエルを見て言った。

     

    30% selection, $375

     

    ミカエルはそれがバイヤーのOfferだと気が付くのに少し時間を要した。YesNoも頭の中になかった。カシェットして良いものかどうか判断がつかなかった。

     

         ―続く―

     

     

     

     

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