Uki Dialy

「カラーダイヤモンド専門店 コズミック」店主によるカラーダイヤモンドブログ
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ふくらみ撫づる
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    ボードレール、なんて言いますと最近では、

    『賭け事はやめとき、競艇なんかやったらアカン』と言われるのが関の山、なんでしょうな、

    「ボートレースちゃうでぇ、ボードレールや!」、とかって言いましても、

    『何? レールの上を何が走るねん??』と返されて終わり〜みたいなことで場が白けるに違いない。

     

    昭和ひとけた生まれ、UKI世代の親父さんたちが若かりし頃は、学歴がなくてもボードレールの『秋の歌』の一節くらいは口ずさむことが出来たそうな〜

     

         吾等(われら)忽ちに(たちまちに)寒さの闇に陥らん

         夢の間なりき、強き光の夏よ、さらば。

         われ既に聞いて驚く、中庭の敷石に、

         薪(たきぎ)を投げ込むかなしき響き。

     

    これは永井荷風の訳。

     

    19世紀のフランスでは、秋になると早々に冬の暖房のための薪の束を中庭に運び込んだそうで、それが乱暴に投げられて立てる音の響きという訳です。欧州は、夏が終われば短い秋の後あっと言う間に冬の訪れ。夏への惜別、寂寥感と、なんとももの哀しい季節感が漂いますね。

     

    ところで、ボードレール詩の中でも特に良く知られているこの一節、

    オリジナルはこれなんですが・・・

     

       Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres;
        Adieu, vive clarté de nos étés trop courts!
        J'entends déjà tomber avec des chocs funèbres
        Le bois retentissant sur le pavé des cours.

     

    上記の荷風さん以外にも色んな人が訳しております、代表的なものを3つほど見てみましょうか〜

     

          やがて冷たく暗い季節がやってくる

          短かった夏の光よ、さらば

          はや中庭の敷石の上では

          薪の燃えさしが音を立てて崩れ落ちる

     

          

          もうすぐ、僕らは冷たい闇の中へ沈んでいくんだ、

          さよなら、短すぎた僕らの夏の、鮮やかな輝きよ!

          僕にはもう、陰鬱な衝撃とともに、

          庭の敷石がおちては鳴り響く音が聞こえてきている。

     

     

          もうすぐ冷たい暗闇へ、私たちは身を投げ沈むだろう、

          さらば、私たちの短過ぎる夏の鮮烈な光よ!

          私にはすでに聞こえている、中庭の敷石の上

          たきぎの束が倒れ、不吉な爆発音を響かせているのを。

     

     

    永井荷風は、エリート官僚の父親の意向で、若い頃に渡米して実業を学んでいたのですが、アメリカがイヤになってフランスに渡ったのですな。日本の銀行のリヨン支店に1年近くの勤務経験があるようですね。現地での生活を描いた『ふらんす物語』を読みますと、“生々しい”と言いますか、フランス女性との‘濃い関係’も豊富だったようで、それがしっかりと翻訳のベースになっていると感じます。

    詩の一部、たった4行なのに、4行目がこれほど違ったもの、皆バラバラの解釈であるのはどういうことかと思いますけども、荷風さん以外の3つは明らかに誤訳であろうと感じますね。

     

    面白いことに、3つの“誤訳”を読んで、再び“荷風訳”に戻りますと、いっそう味わいが増すのですね。そしてこの詩の別の部分の“荷風訳”を読みたくなる〜

     

          長き君が眼の緑の光のなつかし。

          いと甘かりし君が姿など今日の我には苦き。

          君が情も、暖かき火の辺や化粧の室も、

          今の我には海に輝く日に如かず。

     

    ふむふむ、これは『ふらんす物語』の中の描写ではないのかと、

    荷風氏のオリジナルでは、と思ってしまうほどの名訳。

     

    こういうのは如何でしょう〜

     

          月今宵いよいよ懶く(ものうく)夢みたり。

          おびただしき小布団(クッション)に翳す片手も力なく

          まどろみつつもそが胸の

          ふくらみ撫づる美女の如(ごと)。

     

    幻想と官能の世界、

    月が怠惰に夢を見る、自分の乳房を愛撫する美女のように。

     

     

        雨は晴れたり。

        空気はうるほひ、

        木立の匂ひはみなぎりて、

        明け放ちたる窓の外、

        木の葉に滴る雫の音は、

        室の(へやの)すみ、

        いづこと知らず啼きいづる、

        虫の調(しらべ)にまじりたり。

     

    1516の頃からかなり長い間、今の季節が苦手でした。

    幸いにして、登校拒否とか出社拒否にはならなかったけど、晩夏、初秋の全てに嫌悪感というのでしょうか、見る物すべて、聞く音ほとんどが虚しい色あいと響きを持っていたような気がしておりました。

    逆に言えば、目の前のもの全てが身に沁みていたのでありましょうね、、

    超高感度!?

    そういう“どうしようもない”状態は、どういうことか画面が変わるようにスッと消えてなくなる瞬間があるのですね、延髄にズンと刺激を感じた時。“一目惚れ”の瞬間でありましょうか。

    そうなると、目の前の風景がやたら美しく見え、聞く音楽すべてに感動を覚える、、というようなことに。

     

    秋の夜の、ひんやりとした‘しじま’が迫ってくる。

    その迫り来るものの中を見ようとするようにカラーダイヤを見ることが出来たならば、秋の夜長はいっそう充実したものになるに違いありません。

     

          別るるや夢一筋の天の川

     

    漱石の一句です。

    縹渺たる宇宙、夜空を眺め、意識を天界の彼方に流してしまえば、

    これまで見えなかったものが、きっと見えてくる。

     

     

     

     

     

     

     

     

    | ukitama | - | 17:05 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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